東京に桜開花宣言が出た土曜日の午後 S子さんは、高校のバスケットボール部で一緒に汗をかいた同級生だ。 上背のあるモダンな女の子だった。 ここ30年は、年賀状だけの付き合いだったが 今年突然、東京在住のご子息から、事情を記した賀状を頂いて、愕然とした。 直ぐにご子息と連絡を取った。 「東京には知り合いがいませんので、是非会いに行って頂けると・・・」 とのこと。 インフルエンザも下火になって ホーム訪問も、そろそろ大丈夫かな。 ホームの受付で記帳をし 手洗い、うがい、検温を指示された後、個室に案内された。 恐る恐る、ノックをしてドアを開けると S子さんは、ベッドに横になりながらTVを観ていた。 私は思い切り明るい声で「こんにちわ!!」 「だれ?」と起き上がった彼女を見て 部屋を間違えたのかと慌て、そして目まいがした。 お洒落なTシャツを着ていたが 少しやつれた顔に伸びきった白髪姿は 私の知っているあのS子さんではなかった、が、声には覚えがあった。 私は自分の名前を名乗り、高校時代の愛称を告げた。 「あ・・」とわずかに笑って、「少し太った?」 その言葉に、認識してくれたと確信した。が・・・。 もしかしたら認知症を患っているかも、と、どこかで覚悟をして会いにきたのだが 予想をはるかに超えた症状に、愕然とした。 何の話をしたか覚えていない。 会話は成り立たないので、TVを見ながら笑って過ごした。 「何処に住んでいるの?」と、10回以上質問された。 その度に、丁寧に答えた。 そんな事より、一番堪えたのは ご子息の事をすっかり忘れていることだ。 何より悲しくて切なかった。 帰り、エレベーターの前まで送ってくれた。 まだ、ご子息に報告していない。 どう話したらいいのだろう。 多分、ご子息の感じている症状は、現実よりもっと軽い筈だ。 会いたくて会えたのに あれからずっと、落ち込んでいる。 認知症の人とは、かかわった経験がある。 でも、これほど辛かったのは初めてだ。
by ikutoissyo
| 2018-03-18 23:40
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